塾長からのメッセージ

慶應義塾長 清家篤

実学の精神の継承

慶應義塾大学通信教育課程にご関心を寄せていただき、まことにありがとうございます。

慶應義塾の基本にあるのは創立者福澤諭吉が我々に託した志です。なかでも今日もっとも大切なのは「実学」の精神です。実学には実際に役に立つ学問という意味もありますが、福澤は実学にサイヤンスとルビを振っています。このことからも明らかなように、福澤の言う実学とは科学、より正確には実証科学を意味しています。

徳川の封建時代から明治維新を経て近代社会へと至る激動の時代を生きた福澤は、自らの世代を「恰(あたか)も一身(いっしん)にして二生(にしょう)を経(ふ)るが如く」(『文明論之概略』)、つまり一人の人間がまるで二つの人生を経験したようなものだと言っています。そのときに福澤が頼りにしたのが実学でした。大きな変化の時代にはそれまで支配的であった思想や概念、あるいは制度や慣行などをそのまま延長してものを考えることはできません。そうした中で、福澤とその門下生は、既成概念にとらわれることなく、事物の真の姿を実証的な学問にもとづいて理解することで日本の近代化を導いてきたのです。

現代を生きる私たちもまた、大きな変化の渦の中にあります。それは温暖化といった地球環境の変化、少子高齢化といった人口構造の変化など、私たちの住む、自然環境や、社会の持続可能性を問うような変化です。

そのような大きな変化の時代に生きる私たちには、実学の精神に立ち返り、自分の頭で考えることのできる力が求められています。慶應義塾は、これからも福澤諭吉の実学の精神を教育の中心に据え、自分の頭で考え、何が正しいかを自ら判断し、それに基づいて問題を解決することのできる人間を育んでいきたいと考えています。

自分の頭で考えることによって独立自尊の自己と社会を実現する、そういう意欲ある皆様の入学を、慶應義塾は心から歓迎します。