教員紹介 佐野真一郎

商学部教授
佐野 真一郎

商学部教授
佐野 真一郎

私は、商学部で英語科目、総合教育セミナーを担当しております。

私の専門分野は「言語学」です。言語学は文字通りことばを研究する学問ですが、一口に言語学と言っても、様々な分野があります。まず言語には、語彙(単語)、発音、文法、意味などの側面があり、それぞれを専門に研究する分野があります。また、文学作品の文体の特徴を研究する人もいれば、世界各地に赴いて、まだよく分かっていない言語や方言を調べたり、新たな言語を発見するのを専門としている人もいます。さらに、言語は私たちの活動の様々な場面に密接に関わっていますので、他の学問領域との接点も多くあります。例えば、心理学の立場から、MRIなどの実験装置を使って言語を使うときの脳活動を研究する人もいますし、工学の立場から自動翻訳の精度を上げるための研究をしている人もいます。このように、言語学では、個人の興味に合わせて、言語に関わることであれば何でも研究できると言うことができると思います。

私は、言語学の中でも「音韻論」と「社会言語学」を専門としています。音韻論は、言語の発音を研究する分野ですが、言語の発音にはどのような法則があり、それが言語ごとにどう違うか、何が共通かということを研究します。例えば、日本語で「星」と「空」をくっつけるとどうなりますか? 日本語を母語とする人ならほぼ「ホシゾラ」と答えると思います。このように二つの単語をくっつけると後ろの単語の最初の音が濁る現象を「連濁」と言います。では今度は、「星」と「くず」をくっつけるとどうなりますか? これも日本語を知っている人なら「ホシクズ」と答えると思います。ここで、「あれ、おかしいな」と思った人は鋭い。実は、連濁は起こる時と起こらない時があります。その一つは、連濁すると濁音が連続してしまう場合はしないというものです。ですから、「ホシクズ」にはすでに「ズ」が含まれているので、「ホシグズ」にならなかったのです。連濁は日本語に特有の現象(法則)ですが、同じような要素の連続(例、濁音の連続)を禁止するといったものは世界の言語に広く見られるもので、人間言語が共通に持つ法則だと言えます。このような、言語特有の音韻法則と言語共通の音韻法則の関係を明らかにするのが私の研究テーマです。

社会言語学は、文字通り社会と言語との関係を研究する分野ですが、例えば、男女、年齢、場面などで言葉遣いがどう違うかとか、コミュニティごとに特徴的な言葉遣いなどを調べます。私は先ほど挙げた連濁などの音韻現象が社会的な要因によってどう変わるかといったことを調べています。他には、カナダでは英語とフランス語が公用語ですが、その国で何を国語として何を公用語とするかを決めるのにも社会言語学が関係しています(「言語政策」と言います)。また、世界には数千もの言語があると言われていますが、絶滅の危機に瀕している言語も多くあります(「危機言語」と言います)。このような言語が絶滅する(母語とする人がいなくなる)前に調べて記録に残すというのも社会言語学者の重要な仕事です。北海道とその周辺で話されているアイヌ語もその一つですが、こうした活動の結果、「アイヌ語教室」や「アイヌ文化振興法」などが設けられ、アイヌ語の伝承・復興に一役買っています。

人間言語の驚くべき特徴は、誰でも特別なトレーニングなしに短期間で言葉が使えるようになることです(国語の授業を受けるずっと前から赤ちゃんは言葉を話します)。言語を理解する動物なども紹介されますが、それは特別なトレーニングを受けた天才だけに限られますし、複雑なものはできません。その意味では言語を使うことができるのは人間だけです。ですから、これまで紹介したように、言語学は言語に関する様々なことを研究しますが、言語を理解することで人間を理解するということが共通の目標だと言えます。

通信ということで、ご自身で研究テーマと向き合う機会が多いかと思いますが、私自身の言語学への興味は、日常のふとした瞬間で気づいたことばの特徴について不思議に思い、自分なりに考えてみるということが原点だったように思います。ですから、もちろん研究テーマとする際には指導教授の先生に指示を仰いだり、同僚と意見交換をする必要があると思いますが、みなさんもまずは日常の気づきと自分なりに考えるということを大切にしていただきたいと思います。本塾では、外国語科目だけでなく、各学部において言語に関する科目が開講されていますし、塾外の言語学者も多数所属する言語文化研究所もあります。また、言語学部や言語学科はありませんが、先ほど述べたように他の学問領域との接点も多くありますので、様々な角度から言語を見るチャンスは大いにあると思います。ご協力させていただく機会がありましたら、どうぞよろしくお願い致します。

『三色旗』2015年8月号掲載

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