宮城県「仙台藩の図書購入」
慶応3(1867)年1月、軍艦受取委員一行の翻訳方として再び渡米した福澤諭吉は、多額の資金を用意し、大量の英書を購入して同年6月に帰国した。自己資金だけではなく、仙台藩や和歌山藩からも資金を預かり、ニューヨークの出版社兼書籍小売商として有名なアップルトン書店に相談しながら、書物を購入した。この時福澤は学校用教科書類の同一版本を数十部ずつ揃えて買い込み、これによって学生はテキストをそれぞれ1冊ずつ手にして講義を聴くことができるようになり、日本の洋学塾の教授法が一変することになった。
福澤が持ち帰った書籍は、辞書の外、英氏の経済論、「クヮッケンボス」の窮理書、文典、米国史、「パーレー」及び「グードリチ」の万国史、英国史等、何れも皆古今未だ會て目撃せざる所の珍書」(『福澤諭吉著作集』第5巻P90)とあるが、これらは福澤の塾用に供するのみでなく、紀州和歌山藩、奥州仙台藩のためのものも含まれていたまた、「塾生達の勉学のために大量購入して米国から持ち帰った図書には「福沢氏図書記」の朱印が先づ捺印された」(『慶應義塾図書館史』P26)
参考文献
『福沢諭吉全集』第4巻、『福澤諭吉事典』、『福澤諭吉年鑑』第8巻、『慶應義塾図書館史』(慶應義塾大学三田情報センター、1972年)
Wayland, Francis. The elements of political economy.Boston : Gould and Lincoln, 1866. (フランシス・ウェーランド『経済学綱要』)
アメリカで平易な経済学教科書として多くの版を重ねたこの本は、徹底した経済的自由主義に貫かれており、福澤に大きな影響を与え、彼はその読書体験を「心魂を驚破して食を忘れるに至れり」と回想している。福澤の高弟小幡篤次郎により『英氏経済論』として明治4年から10年にかけて翻訳刊行している。本書には「福澤氏図書記」の蔵書印が押されている。
大童信太夫宛福澤諭吉書籍購入計算書(仙台市博物館寄託大童家文書)